駐在・単身赴任の“見えないコスト”を減らす—制度と現場のすき間を埋める家族ごと支援(第1回)
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- 3 日前
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更新日:2 日前

本社と現地を繋ぐキーパーソンとして、重要な役割を担う駐在・単身赴任。その真価を発揮するためには、新しい環境へのご本人の適応も大切ですが、もう1つ重要なカギがあります。それは、ご家族一丸となっての適応です。
駐在や単身赴任において、ご家族の合意と安心が欠けると、早期帰任・離職・稼働低下という見えないコストに直結します。こうした“見えないコスト”に向き合う支援として、Odenでは今年7月に駐在・単身赴任をサポートするコーチングサービスをリリースしました。
本記事では、Oden代表で国際コーチング連盟(ICF)認定PCC資格保有者の会川智華に、まずはその狙いと背景から、駐在・単身赴任における家族ごと支援の必要性、見えないコスト、そして制度と現場のすき間を埋めるポイントについて詳しく伺いました。
| 会川智華プロフィール(株式会社Oden 代表/国際コーチング連盟(ICF)認定PCC) 会計士からプロコーチに転身。組織・人材開発のためのコーチング/コンサルティング/研修サービス「T‑Coach」、夫婦・家族など「大切な関係性」に伴走するコーチングサービス「ふたりごと」、プロコーチのブラッシュアップコミュニティ「MIKAN」を展開。ICF認定スクールにてコーチ育成にも取り組む。 | 
※この記事は、全3回の連載記事です。
第1回:制度と現場のすき間を埋める家族ごと支援(本記事)
第2回:早期帰任・離職・稼働低下を防ぐ『3つの支援フレーム』(11月2週目公開予定)
第3回:人事・経営ができる導入設計と評価指標(11月3週目公開予定)
制度と現場のすき間を埋める第三者伴走
─ 駐在・単身赴任サポート「ふたりごと」をひとことで言うと、どんなサービスですか?
駐在や単身赴任は、会社から期待や役割を託される貴重な“機会”かと思います。一方で、ご家庭の事情——たとえば「お子さんが小さい」「もうすぐ生まれる」「パートナーのキャリア」「ご家族の介護」などによっては、大きな環境の変化が“プライベートの課題”を生み出すきっかけともなります。
その大きな変化に向き合うご本人とご家族のために、『安心して、効果的に話せる場』を作りたいと考えました。
第三者として伴走し、最終的には「この機会をもらえてよかった。」「むしろ家族の絆が深まり、前より“強いチーム”になれた」と思ってもらえるところまでを支える、それが駐在・単身赴任サポート「ふたりごと」です。
─ なぜ今、「駐在・単身赴任×家族」にスポットを当てたのでしょうか?
オンラインで働ける場面は増えましたが、人が実際に移動し、現地で顔を合わせて関係をつくる価値はこれからも変わりません。
同時に、家族のあり方はとても多様になりました。パートナー二人のキャリアの組み合わせも、お子さんの進学先も、選択肢が増えている。だからこそ、「一緒に行く?」「お互いのキャリアはどうする?」「子どものこれからは?」と話し合って納得して進むことが、以前よりずっと大切になっています。
“誰かがどこかで無理をする”じゃなく、“合意して進む”。その対話を第三者として支えたい、それが出発点ですね。
─ 選択肢が増えた分、話し合いの設計が必要になるということでしょうか?
はい、その通りです。多様化は可能性を広げることでもあるので、きちんと話し合いさえすれば、これまでは見えていなかった「より良い方法」にたどり着ける余地が大きくなります。
現場に起きている二重のしんどさ、本人と家族の負荷とは?

─ 着想の出発点になった出来事はあったのですか?
はい、ひとつではありません。コーチングの現場で、ご本人・ご家族の双方から“しんどさ”を何度も耳にしてきました。例えばこんなことです。
<本人のしんどさ>
- 変化そのものがストレス——国・文化・言語・チームが一度に変わる‟大きな環境変化”。突然の辞令でも、自ら掴み取った赴任決定でも、共通する負荷 
- 着任初期のプレッシャー——「早く価値を示さなければ」という焦りで、不安や戸惑いを言葉にしづらくなる 
- 社内制度の利用心理——「評価に響くかも」「どこかで漏れるかも」という怖さから社内窓口を使いにくくなり、抱え込んだ結果メンタルが落ちることがある 
<家族のしんどさ>
- 単身赴任で離れて暮らす現実——時差、連絡の頻度、緊急時対応、家事・育児・介護の偏りが負荷になりやすい 
- 帯同家族の人間関係の難しさ——駐在コミュニティと現地コミュニティ、双方での関係を築く必要があり、国によっては就労制限も。役割の再編と生活リズムの再設計が求められる 
- 新たな国での子育ての難しさ——制度・言語・文化・学校選び・情報アクセスの壁 
いずれの立場でも、アイデンティティの再構築が求められ、孤立しやすい。こうした戸惑いやすれ違いは出発前から生まれやすく、「自分の想いは相手にちゃんと届いているのだろうか?」という小さなわだかまりが積み重なっていくことがあります。
だからこそ、出発前→着任直後→適応が整うまで、第三者が伴走する意味は大きいと感じています。コーチングを通して、価値観や前提を可視化し、互いの願いや感情を言葉にしながら、安心して支え合うための土台を整えることができます。
守秘義務・心理的安全性・独立性が担保された場で話せることで、社内では言い出しにくい不安も扱える。
声を上げにくい構造をやわらげ、自分自身や家族の想いを確かめ合う。その積み重ねが、赴任の成果と家族の安心を両立させる鍵になるのです。
家庭と職場の相互作用——関係性が生む好循環
─ すると、新しい環境の変化で関係性が崩れたり、適応が難しくなる場面からサポートの必要性を感じていった、ということでしょうか?
はい。まさに“崩れやすい局面”でコーチングは大いに機能します。
そういったタイミングで受けに来られたり、学び始める方も少なくありません。駐在先で自分らしさをどう表現するか、どう適応していくかを一緒に探し、帯同家族には新しい土地での人間関係や役割を見つける際の“掴みどころのなさ”を言葉にして次の一歩を見いだしていきます。
最初は「どうしたらいいのか…」という段階から始まっても、次第に、
「むしろこれに挑戦してみたい」
「今の環境だからこそできるかもしれない」
といった前向きな気づきへと変化していく。この節目にこそコーチングを届けたいと考えています。
また、駐在や単身赴任の支援を通して感じるのは、“家庭で起きること”と“職場で起きること”は互いに影響し合うということです。
家庭内の関係性が整うと、仕事への向き合い方やリーダーシップにも自然と良い影響が出てくる。逆に、職場での対話が変わることで、家庭のコミュニケーションにも余裕が生まれる。関係性を支える力は、循環し、場を超えて人を支える力になるんです。
─ ちなみに組織コーチングの現場で、‟関係性”は切り離せないと確信した瞬間はありますか?
何度もあります。例えば、「最近仕事がうまくいかない」というお悩みから話を始めても、掘り下げていくと「パートナーからの否定的な言葉が忘れられず、無意識にブレーキになっている」ということに気づいたり。
逆に、家庭で「今日仕事うまくいかなかったんだよね」と言えて、受け止められるだけで「仕事が人生のすべてじゃない」と肩の力が抜け、結果として職場でも力を発揮しやすくなる。良いサイクル/悪いサイクルが、職場と家庭の間を行き来する感覚です。
オンラインで距離があっても、“分かってくれる誰かがいる”という実感は変わりません。
「職場で誰かの関わり方が変わる」 →「チーム内の関係がわずかに変わる」 →「その人の家庭にも少し余裕が生まれる」
このようにすべてがつながっている。だからこそ、職場でも家庭でも、1on1やチームコーチングという専門家との対話を通じて“関係性の土台”を整えることが有効です。
これは補足ですが、地域や学校、オンラインの小さなコミュニティといった“第三の場”があると、どこかが一時的に崩れても、他の場が支えになり、循環がより安定します。
ー 職場と家庭の両方で“話せる関係性”を整えることが、結果的に人や組織の力を引き出すんですね。どちらか一方を整えるのではなく、‟両輪で支える”という考え方が印象的です。
「誰もが正しい」「ジャッジしない」土台で組織を守る

ー 会川さんがコーチとして譲れない価値観はありますか?
最初に浮かぶのは、「誰もが素晴らしい」という前提です。駐在や帯同で新しい環境に入ると、「自分なんて…」「こんなこともできない…」と自己評価が下がりがちになる場面も多く見てきましたが、その裏側には責任感や他者の良さに気づける力など、すでに備わっている力が必ずあります。
ご本人がその瞬間は気づけていなくても、素晴らしさはすでに在る。それを一緒に見にいくのがコーチングの大切な側面だと思っています。ご本人が自分の強みに気づけたとき、前に進む足場が整います。
もう一つは、関係性においては「誰もが正しい」というスタンスです。これは言い換えれば「ジャッジしない」ということで、チームコーチングの原則でもあります。家族でもチームでも、問題が起きると犯人探しになりがちです。
それも人としてすごく自然な反応ではあるのですが、コーチとしては、「誰もが正しい」を前提に、「今ここで何が起きているのか、それぞれの正しさがどのように作用しあっているのか、一緒に見ていきましょう」と合意します。良し悪しで裁くのではなく、行動の裏にある大切な価値観や信念を一緒に確認し、次の一歩につなげていくんです。
この合意があると、場が安全になり、本音が出やすくなる。結果として、関係性が整い、組織も家族も前に進みやすくなります。
─ チームだと、それぞれの価値観を認め合う・理解することが要になってきますよね。
そう思います。しかし、一番身近な相手でも全部は理解できない。どれだけ大切に思っていても、「そこだけはちょっと分からない」があるのが人間ですよね。
だからこそ、「同意はできないけど言っていることは分かった」、あるいは「よく分からないけど、それがあなたにとって大事なのは伝わった」——そのレベルのやり取りを積み重ねるリスペクトが大事だと感じています。
ー「誰もが素晴らしい/誰もが正しい/ジャッジしない」の土台があれば本音は出る。「同意はしないが分かる」と言える関係性、とても大事だと感じました。
まとめ
駐在・単身赴任の不調の兆候は、出発前から始まるということが理解できました。制度や面談枠を整えるだけでは、“言い出しづらさ”の壁は残ったまま。独立した第三者が家族ごとに伴走し、合意形成と安心を早期に支えることで、見えないコストを抑え、赴任の成果を守れます。
第2回では、早期帰任・離職・稼働低下を防ぐ『3つの支援フレーム』について具体的にご紹介します。
執筆/WRITING Oden編集部

Oden編集部は、組織コーチング・パートナーシップコーチング・コーチのスキルとあり方を学ぶコミュニティ(MIKAN)での実践と知見をもとに、現場で役立つヒントや最新トレンド、事例をお届けします。

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