人事・経営ができる導入設計と評価指標—駐在・単身赴任の“見えないコスト”を減らす(第3回)
- Info- Oden
- 11月11日
- 読了時間: 7分
更新日:11月17日

駐在員・単身赴任者を“家族ごと”支える連載インタビューの最終回です。第1回では背景にある課題と見えないコスト、第2回ではご本人1on1/ご家族1on1/家族セッションを組み合わせる3層フレームを紹介しました。
連載の締めくくりとなる第3回は、人事・経営の視点から、導入の設計原則・効果の捉え方・始めどきと見送りの線引き・実装の進め方を、Oden代表の会川智華へのインタビューをもとに整理します。
会川智華プロフィール(株式会社Oden 代表/国際コーチング連盟(ICF)認定PCC) 会計士からプロコーチに転身。組織・人材開発のためのコーチング/コンサルティング/研修サービス「T‑Coach」、夫婦・家族など「大切な関係性」に伴走するコーチングサービス「ふたりごと」、プロコーチのブラッシュアップコミュニティ「MIKAN」を展開。ICF認定スクールにてコーチ育成にも取り組む。 |
※この記事は、全3回の連載記事です。
第3回:人事・経営ができる導入設計と評価指標(本記事)
人事・経営の打ち手とスタンス
─ 第2回で整理した『3層フレーム』を踏まえ、現場で実装を担う人事・経営が最初に押さえるべきポイントは何でしょうか?
ポイントは二つあります。一つ目は、「社内の窓口だけでは拾いきれない声が確実にある」という前提に立つこと。ここまでにお話しした難しさは、人事・経営側が従業員やそのご家族の不安や本音に真剣に向き合っていても、どうしても生じてしまうものです。
辞令直後や赴任初期の不安、家族の繊細な本音はなおさら社内では語りにくい。この構造的な言いづらさがあるからこそ、利害から独立した守秘を前提とする第三者を“間”に介在させる設計が機能します。
二つ目は、会社は本人のパフォーマンスだけでなく、「家族を含む人生全体に思いを寄せている」という姿勢を、制度の運用ルールと利用条件に反映し、現場運用で機能させて可視化することです。これは言葉でなく“運用”で伝えるトップメッセージにもなります。結果的にエンゲージメントやロイヤルティの向上につながり、パフォーマンス発揮の土台が整います。
方針の明示と現場のフィードバックの両輪で、「使われる制度」に育てていく。投資対効果の観点でも合理性があると考えています。
効果の捉え方と指標(定量×定性×経時)
─ 社内の合意形成や投資判断の観点から、効果をどう捉え、どんな指標でどう測るのが適切でしょうか。
単一指標ではなく、複数の指標を継続的・経時的に組み合わせて見ていくのが有効です。
利用率・継続率:利用件数や継続利用率の推移(本人・家族別)
利用者満足度の推移:当事者・家族の継続アンケート(匿名自由記述を含む)
パフォーマンス関連:着任後の目標達成度や評価コメントの変化
リスク指標:早期帰任率・メンタル不調発生率の推移
リテンション:帰任後の定着・離職の動き
希望者の動向:赴任・帯同希望者数の推移(中長期)
数値だけに偏らず、匿名の自由記述や上司・人事の定性観察もセットで読み解きます。匿名性は確保しながら、個人単位と全体両方の傾向・変化を見るのがおすすめです。
始めどきと見送りの線引き(開始・停止の判断基準)

─ いつ始めるのが効果的でしょうか?また、避けるべき局面はありますか?
原則は、辞令直後〜赴任初期からの開始を推奨します。 変化が大きい局面では様々な問題の種が生まれますが、同時に対話の優先順位は下がりやすく、悩みや課題が言語化される前に不安・不満が蓄積しやすいからです。早い段階で第三者の専門家が受け止める場を用意しておくと、初期対応のスピードと質が上がります。
一方、避けたいタイミングとしては、1つだけ明確な線引きがあります。コーチングは、メンタル不調の治療などの医療行為はできません。すでに治療が必要と考えられる場合はコーチングをご提供せず、医療的なカウンセリング等へ適切におつなぎします。その局面ではコーチングの開始は見送り、回復後にあらためて活用していただくのが適切です。
— まず、「コーチングは治療ではない」という線引きと“始めどき”の意義に納得しました。早く始められるほど、課題の輪郭がつかみやすくなり、次の一手までの道筋も描きやすくなりますね。
実装ロードマップと試行導入の設計
─ 実際の現場での導入は、何から着手し、どんな順序で進めていくのが良いでしょうか。
ここまでお話ししてきたポイントも踏まえて、実装の流れを整理してお伝えしますね。
1.事前整備
対象の決め方 辞令の段階からご本人+ご家族を原則対象に(自己申告に頼りすぎない導線に)
守秘義務と社内連携のルールの明文化 個別の内容は会社へ共有しません。連携が必要な場合に限り、目的と共有範囲を明確化し、同意の上で最小限で対応
実施チャネルの方針 基本はオンライン。時差に配慮したスケジュール設計で運用
2. 体制づくりと案内
担当コーチの配置基準 赴任地の時差や駐在・帯同経験などを踏まえ、適任のコーチを配置
案内・FAQ・予約導線(利用導線)の準備 特に“言い出しづらさ”への配慮は文面や映像で安心材料を明示し、使いやすい導線で整備
3.試行導入(最小構成)
スコープ 上記1〜2の設計で小規模に開始、6の基準で運用を見直す。 ※詳細は第2回(時期・頻度・フレーム)を参照
4. 運用
実施タイミング 辞令時に1回/出発直前に1回。 合意形成・段取り・役割の再設計/不安の言語化
セッション構成 状況に応じて本人1on1/家族1on1/家族セッション
実施頻度 着任初期は2〜3週に1回、慣れてきたら1〜2ヶ月に1回へ
期間の目安 最短でも4か月・4回以上が目安(変化を実感しやすい)
5. 評価と「次期の進め方」の判断
判断基準 「効果の捉え方と指標(利用率・満足度、目標達成度、定着率、希望者の動向などを経時で読み、継続/緩和/停止を判断。会社への共有は匿名集計のみに限定
6.拡張(ロールアウト)
対象拡大とルール更新 パイロット導入での学びを反映し、対象・ルール・流れをアップデートの上、対象部門/期間を拡張。
この流れはたたき台として置きつつ、状況に合わせて整えていけると良いですね。定期的にふり返り、必要に応じて「対象・ルール・流れ」を見直す。何より、安心して話せる時間を切らさないこと。この状態が保たれると、前に進むきっかけとなったり、次の一歩が見つけやすくなります。
三者で成果を守る――明日からの一歩
駐在や単身赴任は、キャリアと人生にとって大きな機会です。社内だけでは上がりにくい声に配慮しながら、ご本人にも、ご家族にも、そして会社にとっても「やってよかった」「この機会があってよかった」と実感していただけるよう、第三者だからこそできる支援を丁寧に届けていきます。まずは気軽にお話しさせてください。ご一緒できることを楽しみにしています。
— 素敵なお話をありがとうございました。駐在・単身赴任という大きな変化を、当事者・ご家族・組織にとって「やってよかった」と実感できる経験へと丁寧に変えていく取り組みだと納得しました。
まとめ
第3回は、導入設計と効果の捉え方(評価指標)、初めどきと見送りの判断基準、そして実装の流れに焦点を当て、意思決定に使えるかたちで整理しました。3回の連載を通じて、守秘義務が担保された第三者が家族を含めた関係性をまるごと扱うこと、出発前からの初期支援、そして定量+定性を‟経時”で読み続けることの重要性を確認しました。
駐在・単身赴任を「やってよかった」と振り返れる経験へとつなげるために、本連載で共有した視点が、皆さまの現場で次の一歩を見つける手がかりになれば幸いです。
執筆/WRITING Oden編集部

Oden編集部は、組織コーチング・パートナーシップコーチング・コーチのスキルとあり方を学ぶコミュニティ(MIKAN)での実践と知見をもとに、現場で役立つヒントや最新トレンド、事例をお届けします。
